雁屋哲の今日もまた

2010-05-25

敵を間違えるな

 鳩山首相が沖縄県知事に面会して、普天間基地移転問題について、「辺野古周辺にお願いするしかなく、県外に移転すると言う公約を守れなかったことをお詫びする」と言った。
 鳩山由紀夫氏の今回の基地問題についての敗北宣言である。
「ほら、鳩山は出来なかった」と、新聞・テレビははやし立て、沖縄の人びとは「鳩山は裏切った」とか「鳩山は嘘をついた」などと言って怒っている。
 私は、鳩山由紀夫氏を支持する者ではないが、これまでの経過を冷静に見ると、当然の帰結だと思う。鳩山由紀夫氏は、公約を守ることが出来なかったのは事実だが、一体今の鳩山由紀夫氏のような立場におかれて公約を守ることの出来る政治家がいるだろうか。
 鳩山由紀夫氏が公約を守ることが出来なかったのは、氏個人だけの責任ではない。
 我々日本人全体の責任だ。(戦後の「一億層懺悔」の真似をしようと言うのではない)

 私の考えをまとめよう。

 

     
  1. 鳩山由紀夫氏はアメリカに負けた。
  2.  

  3. 基地問題に於いて、日本人が戦うべき相手はアメリカである。
    アメリカと戦おうとしている鳩山由紀夫氏の足を掬い背中から攻撃をする。
    日本人は、自分たちの敵を間違えている。
    敵は鳩山由紀夫氏ではない。アメリカだ。
    鳩山由紀夫氏が戦後の日本の首相として初めてアメリカと戦おうとしているのに、日本人は一致協力するどころか、鳩山氏の足を引っ張った。
  4.  

  5. 日本人は、アメリカの基地問題に本気で取り組む気概を失っている。沖縄県人の苦しみを、他県の人間は自分の物とせず、他人事のように思っている。

 まず、1)について。

 朝日新聞社のAERAの5月24日号に、内田樹氏が、
「『無法を止める』から始める基地問題」
 と題して次のように書いているので、引用させて頂く。

「沖縄米軍基地について、日本政府は過去65年にわたって『東アジアの地政学的安定のために不可欠』だという説明を繰返して、沖縄の人々に非道な犠牲を強いてきた。ここに貫かれているのは『属国は宗主国の要求がどれほど無法でも受け容れるしかない』というワイルドなルールであり、アメリカ・日本・沖縄は立場を入れ替えながら、同じ図式を反復してきた。
(途中要約〈冷戦は終わり、アメリカはかげりが見え、東アジアに基地はもう要らないという声がアメリカ国内にもあり、フィリピンのクラーク基地、スービック基地から撤退し、韓国内の基地の劇的な縮小を決めた〉)
 その中にあって、日本についてだけアメリカが基地撤去を受け容れないのは、東アジア唯一の敗戦国に対しては『無法が通る』と思っているからである。
(途中要約〈それと同じように、日本政府が沖縄県民に犠牲を強いているのは、沖縄には『無法が通る』と思っているからである〉)
 日本政府はまずおのれの『無法を止める』ところから始めるしかないだろう。
 そのときはじめてアメリカに対して『無法を要求するな』という『倫理的』権利を手にすることができると私は思う。」

 氏は、これまで日本政府は「属国は宗主国の要求がどれほど無法でも受け容れるしかない」という「ワイルドなルール」に従って、沖縄の人々に非道な犠牲を強いてきた、と言っている。
 正にその通りで、この65年間日本政府は沖縄の基地問題に限らずアメリカに奴隷のごとく仕えてきた。
「ワイルドなルール」を押しつけてきたのは沖縄の基地問題でけではない。
 アメリカは、日本のすることなす事全てに、「ワイルドなルール」に従うように強要してきた。
 それを示す物が、「年次改革要望書」であり、「思いやり予算」である。
 この、過去の日本政府が積み上げてきた、属国としての奴隷的政策を理解しないと、沖縄基地問題を解決出来ない。

 ◎「年次改革要望書」とは、アメリカが日本の産業、法制度、などについてその要求事項を日本政府に毎年送りつけ来る通達書である。
 それがどのような範囲に及ぶかというと、
 通信、情報技術、医療機器・医薬品、金融サービス、競争政策、商法および司法制度改革、透明性、その他の政府慣行、民営化、流通、なんと、日本の社会の重要な分野全てに及んでいる。
(2008年度の要望書は、アメリカ大使館のホームページに掲載されている。

 http://japan.usembassy.gov/pdfs/wwwf-regref20081015.pdf

 2004年度の要望書は、アメリカ大使館のホームページに掲載されている

 http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20041020-50.html

これは、要望などと言う生やさしい物ではない。
日本に対して、「こうしろ」という命令書である。
この要望通りに事が進んでいるか、日米の担当官が定期的に会合を持って点検する。
アメリカの通商代表部は日本政府に圧力をかけて、要望書通りの実行を求めるのだ。

どんな要望をしているか、その一例を挙げる。

「農業に関連する慣行:有機農産物輸入、安全な食品添加物、収穫前・収穫後農薬の検査制度に関してCODEX基準に準拠する。最大残留農薬基準に関して、できる限り貿易を制限することがない効果的な輸入措置を取る。

(CODEXとは、独立行政法人・農林水産消費安全技術センターによれば、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機構)が合同で、消費者の健康保護や公正な食品貿易の確保を目的に作る食品規格のこと)

これを読んで、私は、腹の底から怒りがこみ上げてきた。
我々日本人が、自分たちの健康を守るために、自分たちの決めた安全基準を決めるのは当然のことだろう。
それを、こんなことをどうしてアメリカに指図されなければならないのだ。
一番の問題点は、「最大残留農薬基準に関して、できる限り貿易を制限することがない効果的な輸入措置を取る。」というところだ。
これは、言い換えれば、「アメリカの農産物の残留農薬について、うるさいことを言わずに輸入しろ」、と言うことだ。

日本は、アメリカから大量の食料を輸入している。
大豆は日本人の食卓に欠かせない物だが、その大豆の自給率は5パーセントでしかなく、74パーセント以上はアメリカから輸入している。
大豆、小麦、などは栽培中は勿論、収穫した後も虫食いなどを防ぐために収穫後(ポストハーベスト)に農薬を使う。
その農薬残留基準を高くすると、大豆を始め、アメリカの農産物の日本に対する輸出が不利になるから、そんなことはするなと言うのである。
そんなことは余計なお世話、と言うより悪質な内政干渉だ。
自分たちの食べ物の安全性は、自分たちで判断して決める。
どんな基準であろうと、それに従えと、アメリカに言われる筋合いはない。
アメリカは日本人の健康などどうでも良い。自分たちの農産物が沢山日本に売れれは良いのであって、その邪魔になるような残留農薬基準などアメリカに都合の良い数値にしておけ、と言うことである。

小泉首相は「改革、改革」と言いつのった。
その「改革は」はアメリカにせかされた改革だった。
郵政民営化も、小泉は最初郵貯の民営化だけを言っていたが、アメリカの要望書に従って簡保が柱となり、結局4分割された。
「法科大学」が作られたのも、アメリカの要望書に従った物である。
念のために言っておくが、この「年次改革要望書」はアメリカの利益になるように日本を改革しろと言う命令書なのだ。
日本のための改革ではないのである。
こう言う書類を受けとると言うだけで、日本政府は、自尊心も何も無い人間達の集まりであることを示している。
それも、毎年受取るとは、情けない。日本政府はどこの国の国民のための政府なのか。
日本の官僚はアメリカの要望書の命令を達成するために働いているような物だ。

こんな日本を独立国だと言えるか。
なぜ、アメリカが、こんな自国に都合の良い「改革要望書」を日本に突きつける権利があり、なぜ、日本政府は「改革要望書」を押し頂き、アメリカの意のままに自国の政治を運営するのか。
これほど惨めで無残な二国間関係は、昔の植民地でしか見られなかったことだ。
日本は、何から何まで、アメリカの指図通りに動かなければならない、と歴代自民党政府が決めてきたのだ。
歴代自民党政府は、文字どおりの売国奴、腰抜けの売国奴共の集団だった。
65年間、そんな関係を続けてきたから、アメリカにすこしでも、逆らうと、手ひどい目に遭う。
小泉はアメリカに行って、ブッシュの前で、自分がアメリカの忠犬であることを示すためにプレスリーの真似をして馬鹿をさらしたが、その馬鹿さ加減がブッシュを安心させて、大変ブッシュの覚えが目出度かった。

ところが、鳩山由紀夫氏が少しでもアメリ基地に異論を申し立てると、TIME、ワシントンポスト、などを動員してて鳩山をアホだの、馬鹿だのと罵る。
挙げ句は、シャツの趣味が悪いと、人格を貶めるような誹謗を尽くす。
(それに乗って、自民党の女性代議士が議場で、鳩山由紀夫氏にそのシャツの件でヤジを飛ばした。その女性議員はアメリカから、ういやつ、とおぼえが目出度くなるだろう。アメリカの奴隷試験に合格したのだ。おめでとう)
日本人の大半は、このアメリカが毎年通達してくる「年次改革要望書」の事を知らない。
小泉と竹中という2人の売国奴が騒ぎたてた、「改革」とは、アメリカの「年次改革要望書」通りに日本の姿を変えることだったのだ。

一度、私が上に挙げた、アメリカ大使館のホームページで、その「年次改革要望書」を読んで貰いたい。
これで、髪の毛が逆立たず、血も逆流するような感じを抱かなかったとしたら、貴方も既に立派なアメリカの奴隷ですよ。
この「年次要望改革書」は内政干渉どころではない。
まさに、宗主国が属国に下す命令である。

こう言う関係が、65年続いているのだ。
それに、唯々諾々と従ってきた自民党政府がいなくなったからと言って、アメリカが急に態度を変える訳がないだろう。
鳩山由紀夫氏が何を言おうと、馬耳東風。
真面目になって言い続けると、突然兇悪な顔になって、脅迫的言辞をちらつかせれば、鳩山由紀夫氏も心がくじける。
それも、国民全員が、鳩山由紀夫氏を支持してくれるなら、がんばれるが、新聞、テレビで毎日のように、「宇宙人だ」とか、「信用できない」などと言われ続けられればとても、強力なアメリカ相手に戦う力が湧いてこない。
鳩山由紀夫氏自身、母親から貰った献金の処理がまずかったと言う愚劣さはあるが、そんなことは、「賢明なる検察官諸君」は何年も前から摑んでいるはずであり、それならその時に、問題にすればよかったのに、鳩山由紀夫氏が首相になった途端に動き出して調査に入り、捜査の過程を如何にも犯罪が犯されたかのように連日リークし、それに合わせてマスコミが、鳩山由紀夫氏が大罪を犯した大悪人であるかのように騒ぎまくって、国民感情を扇動した。
国民も簡単に扇動に乗って、世間全体が「献金問題、献金問題、献金問題」と騒ぎ、「あんな途方もない金持ちに庶民の心など分かるはずはない」というやっかみも加わり、鳩山由紀夫氏に対する支持率が極端に低下した。

これでは、手足を縛られて、ボクシングをしろと言われているような物で、何も出来ない。
さらに、マスコミは「鳩山由紀夫氏は普天間問題を解決出来ない」「鳩山由紀夫氏にその能力はない」などと書き立てた。片言隻句をとらえて「鳩山迷走」とか「閣内にも鳩山不信感」などと責め続けた。
これでは、鳩山由紀夫氏が動けなくなるのは当然だ。
あの状況で、どう動けばよいのか。
普天間基地移設問題で、反対運動をしていた人達の多くも、鳩山由紀夫氏の献金問題で、検察のリークの通りに動かされているのではないか。

もう一つ、日本が情けない属国であることを示すのが「思いやり予算である」
日本人の大半は、この「思いやり予算」などと言う言葉を知らないか、知っていても関心を払わない。日本人全体に、奴隷根性がしみこんでいるのだ。
今この文章を読んでいる貴方。私は貴方のことを言っているんですよ。
他人事のように読まないでね。

◎「思いやり予算」とは1978年、円高ドル安に配慮して、在日米軍基地で働く日本人従業員の給与の一部負担(62億円)を日本政府が決めたのが始まりで、その後、米国側の要求で、基地内の光熱費、水道費、施設建設費、さらには米兵のリクリエーション施設の経費などの厚生費まで範囲が広がり、金額も上昇した。

 2010年4月7日のNHKの「ニュース9」によると、1978年から2010年までの32年間で、総額5兆5千億円に達する、というからすごい。
なぜ、「思いやり予算」などという訳の分からない名前がついたかというと、1978当時の金丸防衛長官が「思いやりの精神で米軍駐留軍の負担増に応じる」と述べた事による。
これは、全く奇怪である。
沖縄に駐屯しているのはアメリカの海兵隊である。
元朝日新聞社会部記者で軍事ジャーナリストの田岡俊次によると、いざ戦争などが起こった時に、海兵隊の取る行動の優先順位は次のようになっていると言う。

  1. 自国民(米国人)の救出・保護
  2. アメリカの永住権であるグリーンカードを持つ人の救出・保護
  3.  

  4. 友国であるカナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドの人の保護。
  5.  

  6. その他の人

 この、4番目のその他の人の中に、日本人が入っているらしい。
 いずれにしても、沖縄にいる海兵隊は、沖縄県の人間を助けるにしても、まず、自国、友国(アングロサクソンの国)のあと、余裕があればと言う程度である。
 元防衛大臣の石破自民党政調会長も優先順位の1位が在留米国人であることを認めており、日本人はせいぜい「在留米人を救出した後、空席があればついでに助けてもらえる」程度なのだといっているそうだ。
 こういう、日本人のことなど考えていない海兵隊が、何か事があった時に日本を助けてくれるとはとても信じがたい。こう言う軍隊に、何を思い遣ってやる必要があるのだろう。
 お人好しというか、奴隷根性もいい加減にして貰いたい。

「思いやり予算」の内容を、日本共産党の「しんぶん赤旗」が詳しく調べている。
(私は日本共産党とは意見を異にするし、彼らの政治論など受け付けられないが、彼らは他のマスコミが調べないようなこともきちんと調べているので信用できる部分もある。)

 以下が、その「しんぶん赤旗」、2005年5月19付けの紙面である。

 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-05-10/03_01_0.html

 2010年4月7日のNHKの「ニュース9」の「思いやり予算」についての部分はYouTubeでみられる。

 http://www.youtube.com/watch?v=PzLPhuzMtEQ

これは、是非見て貰いたい。
アメリカ側の勝手な言い分。贅沢な施設。横須賀基地で日本の税金で働いている多くの日本人技術者たち。そんな姿を実際に見ると、日本人として生きているのがいやになる。
(「しんぶん赤旗」は1979年から「思いやり予算」で使った金額を2兆円と書いているが、それは、住宅建設に限定された金額ではないか。
「ニュース9」の番組中で示された、5兆5千億円超という数字が、正しいと思う。NHKの計算は、赤旗よりも詳しい。)

この「思いやり予算」ほど、これまでの自民党政府がどんなに腰抜けで、アメリカの言うがままに、アメリカに尽くしてきたか、物語るものはない。
アメリカは、日本がアメリカに、金を貢ぎ、アメリカの基地を維持するのに日本人の税金を費やすのが当然と思っている。

 ここでまた、「しんぶん赤旗」にお世話になる。
 2010年3月19日の「しんぶん赤旗」に次のような記事が載っている。

 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-03-19/2010031902_03_1.html

「恩恵」と来たよ。途方もないことを言う物だ。居直り強盗、とはこのことだ。
 NHKの番組の中でも、米軍関係者が「日本のGDPからすれば、大した金額ではない」といっている。
 贅沢なジムなどの施設について「娯楽と思われかも知れないが、米軍兵士の士気を高めるのに必要だ」という内容のことを言っていた。自分たちの兵士の士気を高めるのは、自分たちの金でやれよ。自分たちの軍隊なんだろう。
 あの兵士たちは、イラクやアフガニスタンで無差別市民殺戮を繰り広げている連中ではないか。
 どうして、そんな残虐かつ非人道的な兵士たちの士気を我々日本人が高めてやらなければならないのだ。
 フィリピンのクラーク基地、スービック基地から撤退し、韓国の基地も縮小したのに、米軍が日本から基地を撤退しないのは、この「思いやり予算」の存在が大きい。
 アメリカは、おかげで大変に安い費用で基地を維持できる。
 5兆5千億円も払ってくれる国がどこにあるか。
 グアムに移すとなると、全て自前で基地を維持しなければならない。
 勘定高いアメリカ人が、そんなことをする訳がない。
 アメリカが、日本から基地を撤退する訳がない。
 したがって、今の日米の力関係、歴史的に自民党政府が行ってきた屈辱的な隷属政策からして、沖縄から米軍が基地を撤退したり移転する訳がない。

「年次改革要望書」で、日本政府は自国の政策をアメリカに決められ、「思いやり予算」でアメリカに徹底的に貢ぐ事を続けて来た。
 アメリカは、その「思いやり予算」はもう当然の権利だと思っている。
 そんな状況で、鳩山由紀夫氏が普天間基地の県外移転を言い出しただけで、今までの状況をひっくり返す衝撃があったのだ。

 鳩山由紀夫氏の公約を、「人気取りだとか」言う人が多い。
 実際に、挫折したことをあざける人も多い。
 しかし、これまで、歴代の自民党政府はアメリカと交渉することさえせず、県外移転を言葉に出すことさえしなかった。
 鳩山由紀夫氏は結局アメリカに負けたが、とにかく日本の歴代の首相として初めて沖縄基地に対してアメリカの意に反することを言った。

 一体、誰が鳩山由紀夫氏をあざけることが出来るのか。
 韓国の米軍基地が大幅に縮小されたのは韓国人が全体となって、基地反対運動を続けたからだ。
 日本人はどうか。
 韓国人の根性のひとかけらも持ち合わせていない。
 原子力空母が横須賀を母港にしているのに、反対する人々はいない。(ごくたまに、ほんの少数の人々が反対表明をするだけである)
 横須賀の基地は、東京のすぐそばにある。首都のすぐ近くに米軍基地があっても、何も感じない日本人は、性根を抜かれてしまっているのだ。
 鳩山由紀夫氏が「米軍基地の県外移転」を言い出した時、日本人全体は本当に愛国心があるなら、米軍基地問題を真剣に考えるだけの根性があるなら、鳩山由紀夫氏に協力するべきだったのだ。(母親から貰った金の処分の方法は確かにまずかった。それに対する弁明も、愚かだった。しかし、汚職で貯めた訳ではない。沖縄の基地問題と比べて、どちらが重いのか)
 それを、結局不起訴にしかならなかった問題で大騒ぎして、鳩山由紀夫氏を大悪人に仕立て上げ、折角米軍基地に日本人全体が反対して撤去・移転させる良い機会だったのに、その機会をつぶしてしまった。
 検察と、新聞、テレビなどのマスコミは、今度もアメリカの手先になった。
 自分たちで、手先になったという自覚がないとしても、結果としてアメリカを喜ばせた。

 私は今回の、マスコミの、小沢・鳩山叩きを見て、「はて、これはかつて見たことのある情景だと思った」
 そうだ。1972年に起こった「沖縄密約事件」だ。
 1971年に、時の総理大臣佐藤栄作がアメリカと「沖縄返還協定」を結んだ。
 毎日新聞の西山太吉記者は、71年の調印直後、井川外務省条約局長とスナイダー米駐曰公使との間で交わされた極秘扱いの電信文を入手した。
 それを元に、返還協定上はアメリカが自発的に支払うことになっていた400万ドルの補償費(具舞金)を日本が肩代わりする、という「密約」疑惑について毎日新聞に書いたが、大して反響を呼ばなかった。
 その後、西山記者は、当時の社会党の横道孝弘議員へ、その極秘電文のコピーを渡し、横道議員が衆議院予算委員会で佐藤栄作をその件で追及したことで、電文の存在が暴露されてしまう。

 さあ、ここからが、実に奇怪なことなのだが、その密約より、その極秘電文を西山太吉氏が外務省の女性職員から手に入れたことが問題にされた。
 外務省の女性職員が国家公務員法100条の守秘義務違反容疑で逮捕され、西山太吉記者も同法111条のそそのかしの罪、で逮捕された。
 これは、恐ろしいことであった。
 逮捕するべきは、国民に嘘をついた佐藤栄作であるのに、逆に、その嘘を暴いた西山太吉氏と女性職員を逮捕した。正悪逆である。
 不正を正すのが検察の役目なのに、邪悪を許し、正しいものを捕まえる。
 検察は、佐藤栄作とその背後のアメリカのために、佐藤栄作とアメリカの計画に邪魔になる西山太吉氏と女性職員を陥れたのである。
 検察は勧善懲悪の逆だ。悪を勧め正義を懲らしめる。

 さらに、事態は醜悪な様相を呈してくる。
 検察は、西山太吉が、外務省の女性職員と「情を通じて」秘密電文を入手したと起訴状に書いた。(こう言うことを、普通書くか。西山太吉記者と、外務省の女性記者を貶めるために、公の場でこんな言葉を使ったのだ。ああ、日本の検察は、本当に品性がありますね。気高くて恐れ多いですね。牛の糞の次に品性がありますね)
 すると、マスコミは、沖縄密約を忘れて、西山記者と外務省女性のスキャンダルを報道することに熱狂した。
 たしかに、西山太吉氏の取材過程における行き過ぎはあっただろう。
 しかし、男女の問題と、沖縄密約の問題と一体どちらが重要なのだ。
 日本人にとって死活問題なのは、そのような密約をアメリカと交わしたことだろう。

 あとで、その密約がもっと途方もない物を含んでいることが分かった。
 事件後50年経ったことで、アメリカでは公文書の公開が始まって、ほかにも密約が幾つもあることが次々に明らかになった。

 主なものだけでも、

 

  • ◎日本がドルを連邦準備銀行に、25年間無利子で預け、その利子の分アメリカに1億1200万ドルの利益を与える、と言う密約。
  •  

  • ◎沖縄返還後、核再持込みに関する密約。
    戦争が起きた場合は沖縄に再び核を持ち込むことを認める。
  •  

  • ◎沖縄返還時、費用肩代わりに関する密約。
    沖縄返還にあたり、アメリカ軍が基地として使った土地を田畑に戻すための費用を日本が変わって支払う。

 などがある。

 このような密約がばれるのを恐れて、検察は、西山太吉氏を起訴し、日本にとって極めて重大な問題を、「男女の関係」に矮小化した。
 すると、新聞、テレビは、連日、西山氏と女性職員の男女問題を騒ぎ立て、いつのまにか、肝心の沖縄密約の件は綺麗さっぱりと忘れ去られてしまった。
 国民が、その問題を忘れるように、仕向けたとしか言いようがない。
 日本人も、何が問題の本質かを忘れ、マスコミにおどらされて、西山太吉氏と外務省の女性職員の人格を貶めて喜ぶという、自分自身の劣情をかき立てて熱狂した。
 西山氏の問題を論じるなら、その数倍を密約問題に費やすべきではないか。
 なにが、日本という国にとって大事なものなのか、マスコミの人々は判断がつかないような頭をしていたというのか。
 そうではあるまい。あれは意図的に起こされた騒ぎだったのだ。
 検察と、マスコミが手を結んで、国家の犯罪を隠蔽したのである。
 これで一番得をしたのはアメリカで、次に、当時の佐藤栄作である。

 私は、あれよあれよという間に、話が沖縄密約から男女の問題に変わって、その件をマスコミが騒ぎ立て、密約の問題が消えてしまったことに驚いた。
 今回の鳩山由紀夫氏叩きも、これとよく似た図式である。
 アメリカの不利になると、アメリカに飴をしゃぶらされてきた、あるいは日常的に恫喝を受けている、マスコミ首脳、検察庁幹部、はアメリカのために、鳩山由紀夫氏叩きになりふり構わず力を尽くした。
 今日、クリントン国務長官が、鳩山由紀夫氏を賞賛したというニュースが入ってきた。アメリカの勝利宣言である。
 日本のマスコミ、検察幹部たちにも、ご褒美が届くだろう。
 楽しみにしていなさいね。

 自分の頭で考えて、何が正しくて何が不正か理解できない者は愚民である。
 マスコミに扇動されて、何が正しくて何が不正か分からなくなる者も愚民である。
 1972年の沖縄密約事件で、佐藤栄作とアメリカのために検察とマスコミの仕掛けた扇動に乗って、西山太吉氏を屈辱に追い込んだ当時の日本人は愚民だった。
 今、また、検察とマスコミの扇動に乗って鳩山由紀夫氏を叩き、基地問題の解決を不可能にした日本人は、1972年当時の愚民状態から抜け出しているのだろうか。

 最初に戻る。

 2)基地問題に於いて日本が戦う相手はアメリカである。

 今までに述べたことから、いかにアメリカが日本を蹂躙しているかお分かり頂けただろう。
 基地を取り戻したかったら、アメリカと戦うのだ。
 敵はアメリカだ、鳩山由紀夫氏ではない。
 最大の敵を討つためには、鳩山由紀夫氏資金問題は、一時置いておいて、一緒に戦って、そのあとで資金問題を詰めれば良かったではないか。

 物事には順番がある。順番を間違えると、取り返しがつかないことになる。
 ところが、アメリカは、外務省をも、検察をも、政治家達をも、評論家たちをも抱き込んでいるから、アメリカの意を呈した外交評論家などを、新聞テレビなどは総動員して、「日本にとって一番大切なのは日米関係である」と言わせて、アメリカのいうことを聞けと日本人に説教を垂れる。
 そんな評論家たちがどんな人種かというと、先日、元自民党の幹事長だった野中広務氏が、小渕内閣の官房長官在任中(98年7月~99年10月)、内閣官房報償費(官房機密費)を毎月5000万~7000万円程度使い、国会での野党工作のほか複数の政治評論家にも配っていたことを明らかにした。
 そんな評論家たちが、マスコミに動員されているのである。

 これが、アメリカに対する隷属状態が65年も続いた理由の一つである。
 そして、ついに、検察、マスコミ連合の力の前に鳩山由紀夫氏は屈してしまった。
 無残なる敗北である。味方によって、背後から撃たれたら戦いようがないだろう。
 この鳩山由紀夫氏の敗北を見せつけられると、この後、誰が首相になっても日本のこのアメリカに対する隷属状態を解消しようとする勇気を持つ者はいなくなるだろう。
 鳩山由紀夫氏の敗北と共に、沖縄の人々が米軍基地から逃れ出る希望は潰えたのである。
 日本がアメリカの隷属状態から抜け出す機会も消えたのである。

 3)について言えば、日本に米軍基地があるのは沖縄だけではない。

 全国に134個所もある。
 そのうちの米軍専用基地は90個所(そのうちの面積の70パーセントは沖縄)、残りは自衛隊との共同使用の形を取っている。
 横須賀基地、横田基地、など、首都東京のすぐ近くで人口密集地なので、住民たちの苦しみは一方ならぬものがある。
 しかし、基地から離れている人達は、基地について何の関心も示さない。
 沖縄は、遠く離れているので、余計に他人ごとのようだ。

 どうして、誰も反対の声を挙げ、運動を始めないのか。
 沖縄の人々は怒っている。どうして、神奈川県の人間は怒らないのか。他県の人間は怒らないのか。
 沖縄の人々も、誰が鳩山由紀夫氏を潰したか、冷静に判断して、その怒りをその人々に向けるべきだ。鳩山由紀夫氏が公約を守れなかったのは、アメリカの意を受けた彼の力を上廻る連中がいたからだろう。
 沖縄の友人たちよ、間違えてはいけない鳩山由紀夫氏は真の敵ではない。
 真の敵はアメリカだ。
 敵を見失うな。敵に通じている裏切り者を見失うな。
 沖縄以外の県の人間で、鳩山由紀夫氏が公約を守れなかったからと、ののしり、非難する人々は自分たちの愚かしさを罵るが良い。自分たちが何もしなかったくせに、鳩山由紀夫氏をどうして非難できるのだ。

 昔のことわざに、「鷸蚌之争」(いっぽうのあらそい)というのがある。

「鷸」(いつ)は鳥の「シギ」のこと。
「蚌」(ぽう)は、ハマグリのこと。
「鷸蚌之争」とは、「シギが、ハマグリを食べようとすると、ハマグリが殻を閉じてシギのくちばしをはさんで押さえ込んでしまう。シギもハマグリも困って立ち往生する。そこを、漁師が喜んでつかまえる」ということで、「二者が愚かな争いをしているところを、第三者の食い物にされてしまう」という意味になる。

 鳩山由紀夫氏と検察・マスコミのを争いは、まさに「鷸蚌之争」である。
 この場合、アメリカにそそのかされて「蚌」である鳩山由紀夫氏に攻撃を仕掛けた検察とマスコミが「鷸」だろう。そして日本人同士馬鹿な争いをしている内に、漁師=アメリカは大きな利益を得たのだ。
 クリントンは、シギとハマグリの争いで大きな利益を得て、良い機嫌になっているのである。
 これで、日本がアメリカの隷属状態から抜け出るのは早くとも21世紀半ばまでには無理だということになった。
 実に残念だ。私は、とうとう、アメリカの植民地の人間として一生を終えることになるのだ。
 ああ、くやしいなあ。

雁屋 哲

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