雁屋哲の今日もまた

2009-07-03

日本の官僚、万歳

 しかし、見事な物だと思う。
 何がと言って、今回の民主党の鳩山代表献金問題である。
 驚くべき事は、鳩山氏は、このような状態の献金問題を何年も続けて来たと言うことである。
 更に驚くべき事は、この、選挙直前になって、この献金問題を取り上げてくる連中のやり方だ。
 もちろん、鳩山氏は言い訳のしようがない。
 献金もしていない人間の名前を勝手に使って、その人間が献金したように見せかける、と言うのは詐欺である。
 小沢代表の秘書のような、形式犯ではない。
 これは、れっきとした詐欺事件である。
 鳩山氏は、議員を辞職するべきだろう。
 鳩山氏は清潔な人間だと思うが、政治資金でこのような詐欺的行為を行ったとなったら、このままではすまされないだろう。

 私が見事な物だと言うのは、官僚たちのすごさだ。
 民主党は政権を取ったら、官僚組織を組み直すと公言していた。
 日本の国税の多くの部分を、官僚たちが支配する、特殊法人が無駄遣いしている。
 そんなことは、みんな知っていることだ。
 その官僚たちが、自分たちを守るために必死になって鳩山氏の政治資金問題を暴いた。
 その、官僚たちの協力のすごさ。
 実に見事な物だと思う。
 このような力を、国のために使っていてくれたら、ここまで日本は落ちぶれることはなかったのだ。

 私は、引退した官僚たちが、何か新しい仕事に就くために国費を使うことは悪いことではないと思う。
 その仕事が、日本という国に力を与える意義のある仕事であるならば、と言う条件付きで。
 しかし、実際は、特殊法人と言う物は、官僚たちが単に贅沢に生き延びるための組織であって、国力の増強には一切役にたっていない。
 それは仕方のないことであって、東京大学の法学部に入ったときには同じ年代の人間に比べて優秀だったかも知れない人間が、一級国家公務員試験に合格してから、官僚になった後に、彼らに勉強する機会が与えられない。彼らの生活はえらく忙しいのだ。
 我々から見れば、全く無駄なお役所的な仕事に忙殺される。
 私は、四十代の、それこそ人間として一番脂ののりきっているはずの大蔵省の役人と何人か会ったことがある。(昔は、財務省ではなく、大蔵省と言っていた)、彼らは全て東京大学法学部出身で、自分たちが日本を動かしているという強烈な自負を抱いていた。
 しかし、たかが漫画原作者の私の眼からしても、彼らの知的な劣弱さは恐るべき物だった。
 当然、読んでいるはずの書物の話をしても、通じない。読んでいないのだ。なにも、特別な本ではない。トーマス・マンとか、アルベール・カミュとか、唐詩選とか、もし彼らが外国の官僚と話をする場合に当然の常識として話に出る、書物を読んでいないのである。
 彼らは、大蔵省(財務省)のなかで、決まり切った仕事をこなすことにかけては大変に優秀なのだろうが、それまで出会ったことのないことに対処する能力は絶対的に欠けていた。それは、基本的な教養に欠けているからである。
 彼らと話していて、絶望的になったのは、日本という国全体の進路ではなく、自民党支配の政府の政策についてのことしか語れないと言うことだった。
 余りに、歴史的なこと、哲学的なこと、人文的なこと、そのような事に対して、無知である。
 これでは、官僚として同じような地位にある外国の官僚に対したときに、話が通じないだろう、馬鹿にされるだろうと危惧したのである。
 ある程度、外国語も理解できる。
 しかし、欧米の本当の知識人というのは凄いものであって、深い学識と、論理の立て方に秀でている。
 欧米の官僚の頭に当たる人間の勉強の度合いは、東京大学法学部の比ではない。
 大体、東大法学部の学生は、ほんの一部を除いて、在学中にろくに勉強をしない。
 私は、数ヵ月前に、東京大学教養学部で講演をした。
 そのあとに、文科系の学生が私に、「先生、僕たち文化系の人間もちゃんと勉強しています」というので、何を勉強しているんだ、と尋ねたら、「司法試験とか、公務員試験の勉強です」と言ったので、私はあきれて、その学生に「試験勉強は本当の意味の勉強ではないんだよ。資格を取るための勉強は、勉強と言えない。勉強というのは、もっと人間のあり方を追及する深いものでなければならないんだ」
 と答えた。その学生は、分かったのか分からなかったのか、多分分からなかったのだろう「はあ・・・」と答えて私の前から引き下がった。(この件については以前にも書いた)

 しかし、このように世界的には通用しない教養しか持っていない東京大学法学部卒業の官僚たちが、実質的に日本の社会を支配している。

 この官僚組織に、鳩山民主党代表は、民主党が政権を握ったら手を入れる(もっと、厳しい言葉を使ったと思うが、ここでは、穏当な表現に止めておく)と言った。
 それで、官僚たちは、発狂状態になったのだろう。
 何が何でも、自民党政府を維持しなければならない。
 その結果が、小沢一郎代表の秘書の逮捕であり、今回の鳩山代表の政治資金の不正の追及だろう。
 官僚たちは、彼らの持つ組織の力を上げて、民主党をつぶすために動いているのだ。

 私は、小沢一郎氏も、鳩山氏も、政治資金の法律に触れたことをしたことで、言い訳は出来ないと思う。
 しかし、それなら、どうして、自民党の二階氏、千葉県知事の森田氏、さらには、伊吹文明氏の疑惑を追及しないのか。
 二階氏、森田氏、伊吹氏についての追及を行わずに、突然鳩山氏の疑惑に矛を向けるのは、公平ではないと思う。

 第一、これだけ、政治家の政治資金が問題になること自体、この国の仕組みがおかしいのだ。
 そこを、検察は、普段は全く無言のままで、このような政治の変化が起きようとしているときに、突然正義を装う事が腑に落ちない。

 自民党も、民主党も、一つ穴のむじなだ。
 民主党には、旧社会党から逃げ込んだ、最低の人間が沢山いる。
 社会党が、自民党と結託し、社会党の党首が日本の首相になったあの村山事件は、日本人のもっていた、倫理観念を根底からくつがえした。
 というか、結局、あれほど長い間自民党と敵対していた社会党が甘い汁を見せられたら、ころっとひっくり返る、と言う事実を見せつけられて、日本人は政治、あるいは政治家に対して決定的な絶望感を抱いたのだ。(少なくとも私は)

 しかし、社会党がそれで失敗しても、本当に社会党の党としての意義を自分の信条として持っている人間ならば、自民との結託が破れて再び野に戻ったとしても、そのまま、社会党の立党の本義に立って戦えば良いではないか。
 それなのに、大半の社会党の議員が民主党に逃げ込んで、いまや、主義主張などどうでも良く、単に議員であることだけに自分の生きる意味を作り出して、生き延びている。
 そのような、社会党くずれ、民社党くずれ、がはびこっている民主党が自民党に代わったところで、この日本が良くなる気配はない。

 鳩山氏は、うっかり選挙に勝って首相になったりする前に政治資金の不正の件で、引退する方が、本人のためにも日本のためにも良いことだ。

 では、自民党、民主党に代わって、今のどん底に陥りつつある日本を救うことの出来る政党があるかと言えば、ない。

 小泉氏が首相になったときに、私は「これまで、最悪の総理大臣が出現した。彼は日本を駄目にする」と何かに書いたが、あの最低の小泉氏が一旦壊してしまうと、日本の社会が再生能力を完全に失ったことを思い知らされて、呆然となる。
 ここまで、日本の社会は、力を失っていたのか。
 途方に暮れる。
 私は、日本が第二次大戦後の廃墟から復活し、世界的な経済大国になるまでを見てきた。そして、その経済大国の地位から転がり落ちて、中国の支配下に陥るのを、今、目の前にしている。
 福沢諭吉は、幕末、明治維新、日清戦争を経て「一人の人間が二つの人生を生きるような思いがする」と言った。
 私は、三つぐらい、別の人生を送ってきたような気がする。

 しかし、日本の官僚たちは見事な物だ。
 こうして、民主党をつぶすことで、自分たちは生き延びることが出来ると思いこんでいるのだ。
 見事な、アホだな。
 日本という国がもうつぶれようとしているのに、国がつぶれても、官僚だけは生き延びることが出来ると思っているのだろうか。
 たぶん、そう思っているんだろうな。

雁屋 哲

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